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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)4616号 判決

原告

上田幸子

被告

小田垣光造

主文

一  被告は原告に対し、金八三五万六六四八円と、これに対する昭和五六年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告の、その一を被告の、各負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分にかぎり、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

(一)  被告は原告に対し、金四〇〇八万六四八二円と、これに対する昭和五六年五月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

(三)  この判決は仮に執行することができる。

二  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告の請求を棄却する。

(二)  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

(一)  交通事故の発生

昭和五五年八月五日午前六時一〇分ころ、東京都江戸川区北小岩七丁目九番一五号先路上(以下、本件事故現場という。)において、上田久雄運転の自動二輪車(車両番号足立め六五一一―以下上田車という。)と、被告保有、西村健二運転の普通貨物自動車(車両番号足立四五ち一八八四―以下西村車という。)とが衝突して、上田が負傷し、同日午前九時二三分死亡した。

(二)  損害及び損害額

1 治療費等 三六万三五七〇円

2 葬儀費 五〇万円

3 逸失利益 三六四九万三七六八円

上田は昭和三九年二月四日生の男子であり、本件事故当時一六歳、高校二年生であつたから、逸失利益の算定にあつては、年収三一五万六六〇〇円(昭和五四年度労働大臣官房統計情報部資金構造基本統計調査報告第一巻第一表、産業計、企業規模計、学歴計、男子の全年齢平均給与額)、生活費率五〇パーセント、就労可能期間一八歳から六七歳までの四九年間、とするのが各相当であり、複式ホフマン年毎方式で中間利息を控除したその現価は、左記の計算式により、三六四九万三七六八円である。

315万6600円×50%×(24.9836-1.8614)

4 慰藉料 一〇〇〇万円

5 弁護士費用 三〇〇万円

(三)  権利の承継(相続)

原告は上田の母であつてその相続人であり、他に相続人はなく、上田が死亡したことによつて同人の財産に属した一切の権利義務を承継した。

(四)  よつて、原告は被告に対し、自動車損害賠償保障法第三条本文に基づき、前記(二)1ないし4の合計四七三五万七三三八円から受領済みの自賠責保険金一〇二七万〇八五六円を差引いた三七〇八万六四八二円に前記(二)5の三〇〇万円を加えた四〇〇八万六四八二円と、これに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和五六年五月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを請求する。

二  請求の原因に対する認否

(一)  請求の原因(一)は認める。

(二)  同(二)1と3の中、上田が昭和三九年二月四日生の男子であり、本件事故当時一六歳、高校二年生であつたことは認める。その余は知らない(争う)。

(三)  同(三)は知らない。

三  抗弁

(一)  免責、過失相殺

1 本件事故は上田車を運転していた上田の一方的な過失によつて発生したのであつて、西村車を運転していた西村には何らの過失もなく、西村車の保有者の被告もその運行に関し注意を怠らなかつた。

本件事故現場付近の道路の状況は別紙図面の通りであり、アスフアルト舗装されており、最高速度は二〇キロメートル毎時に指定されており、追越しのための右側部分はみ出し通行禁止の交通規制がある。

西村は西村車を運転、葛飾橋方面から蔵前橋通り方面へ、約三〇キロメートル毎時の速度で、センターラインの左側約三〇センチメートルを進行して本件事故現場付近に至り、蔵前橋通り方面から葛飾橋方面へ対向、進行する上田運転の上田車が、スピードを出し過ぎて、道路がカーブする付近をセンターラインを越えて滑走してくるのを、自車の前方約六・二〇メートルに発見、ブレーキをかけると共に左に転把したが間に合わず、センターラインの左側約一・一〇メートルの地点で衝突した。

2 本件事故が発生した時点で、西村車に構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

(二)  損害の填補

原告は住友海上火災保険株式会社から、自賠責保険金として、昭和五五年一〇月の二〇日に一六〇万円、二二日に八六七万〇八五六円、合計一〇二七万〇八五六円の支払いを受けた。

四  抗弁に対する認否

(一)  免責、過失相殺について

1 本件事故は西村車を運転していた西村の過失によつて発生した。本件事故が上田の一方的な過失によつて発生したとの主張及び被告が西村車の運行に関し注意を怠らなかつたとの主張は否認する。

本件事故現場付近の道路の状況が別紙図面の通りであり、アスフアルト舗装されており、最高速度の指定、はみ出し追越し禁止の交通規制があること、上田車がセンターラインを越えて滑走したことは認める。衝突地点は知らない。上田車がスピードを出し過ぎていたとの主張は否認する。

西村が西村車を運転、葛飾橋方面から蔵前橋通り方面へ、制限速度をはるかにこえる五〇ないし六〇キロメートル毎時の速度で、センターライン一杯を進行したこと、前方の見とおしがよいにもかかわらず、対向して進行する上田車が前方一六・八〇メートルに至るまで発見できなかつたことが原因で、本件事故が発生した。

2 抗弁(一)2は知らない。

(二)  損害の填補について

認める。

第三証拠〔略〕

理由

一  昭和五五年八月五日午前六時一〇分ころ、本件事故現場において、上田運転の上田車と被告保有、西村運転の西村車とが衝突して、上田が負傷し、同日午前九時二三分死亡したことは当事者間に争いがない。

二  上田が負傷して死亡するまでの治療費として三六万三五七〇円を要したことは当事者間に争いがなく、上田が死亡したことから、その葬儀がとりおこなわれ、それに五〇万円を上回る費用を要したと推認され、これに反する証拠はない。

上田が昭和三九年二月四日生の男子であり、本件事故当時一六歳、高校二年生であつたことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、上田の逸失利益の算定にあたつては、年収三四〇万八八〇〇円(公刊されている原告主張の報告の昭和五五年度の平均給与額)、生活費率四〇パーセント、就労可能期間一八歳から六七歳までとするのが各相当であり、ライプニツツ方式で中間利息を控除した上田の逸失利益は、左記の計算式により、三三七〇万五一九一円である。

340万8800円×60%×(18.3389-1.8594)

上田と原告の身分関係等を考慮すると、上田の死亡による慰藉料としては、一〇〇〇万円が相当である。

三  成立に争いのない甲第二号証によれば、原告は上田の母であつてその相続人であり、他に相続人のないことが認められ、これに反する証拠はない。

四  本件事故現場付近の道路の状況が別紙図面の通りであり(以下の記号は別紙図面のそれである。)、アスフアルト舗装されており、最高速度が二〇キロメートル毎時に指定されており、はみ出し追越し禁止の交通規制があることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第六号証によれば、本件事故現場付近の道路は葛飾橋方面から蔵前橋通り方面へ向つて、約一二六度三〇分の角度で右にカーブし、約一〇〇分の四の勾配で下り坂になつており、右前方の見とおしはよいこと、本件事故発生当時、天候は曇天で路面は乾燥していたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

上田が運転する上田車が、センターラインを越えて滑走したことは当事者間に争いがない。

甲第六号証と証人西村の証言によれば、西村は西村車を運転、センターライン一杯を、葛飾橋方面から蔵前橋通り方面へ進行して、本件事故現場付近に至り、〈3〉付近で右前方一六・八〇メートル〈ア〉付近に対向車の上田車を認め、〈4〉で制動すると共に左に転把したけれども、×で上田車と衝突、西村車の下になつた上田車を押して、〈4〉から一五・六五メートル、×から一一・五〇メートル進行した〈6〉付近で停止したことが認められ、証人上里の証言のうち右認定に反する部分は信用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

西村車の右前方の見とおしはよかつたにもかかわらず、西村が〈3〉付近ではじめて前方一六・八〇メートル〈ア〉付近に上田車を発見していることから、西村に前方不注意が認められ、また、路面はアスフアルト舗装されていて乾燥しており、上田車を下にしていながら、なお〈6〉付近まで西村車が進行していることから、制動する以前の西村車の速度は制限速度の二倍を越えていたことが認められ、右認定に反する証人西村の証言は信用できず、他に右認定を左右する証拠はない。

右の事故態様からすると、本件事故は西村、上田双方の過失が原因で発生したというべきであり、従つて、免責の抗弁はその余について判断するまでもなく失当であり、また、六〇パーセントの過失相殺をするのが相当である。

五  以上の損害について、原告が自賠責保険金一〇二七万〇八五六円を受領したことは、当事者間に争いがない。

六  以上により、原告は被告に対し、前記二の合計四四五六万八七六一円の四〇パーセント相当の一七八二万七五〇四円から前記五の一〇二七万〇八五六円を控除した七五五万六六四八円を請求しうるところ、原告が本件訴訟の追行を弁護士に委任したことは本件記録上明らかであり、当裁判所は、本件事案の内容、審理の経過、右認容額等を考慮し、その費用として八〇万円を被告において負担すべきであると考える。

七  以上の次第で、原告の本訴請求は、八三五万六六四八円とこれに対する昭和五六年五月二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから認容し、その余は失当であるから棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条をそれぞれ適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 田中優)

別紙図面

〈省略〉

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